自然に近づける植栽
私は今、「雑木の庭』と「地形を活かす外構デザイン」という2つのコンセプトを軸にして、庭や外構の提案をさせていただいています。このコンセプトは、住まいを「外」から考えることを大切に、自然を感じる心豊かな暮らしを追求していこうというものです。特に緑の力を活かした外回りから考える住まいや、空間を建築ではなく外構や造園の立場から提案していきたいと思って仕事に取り組んでおります。その中で大切にしているのは、緑の力で心地よい住まいを作るには、人目線で庭をつくり込むのではなく、自然に近づける植栽が必要だということです。
そのためには、自然の山はどうなっているのかを学び、樹種の組み合わせや配置などを決めていく必要があります。お施主様が「この木が欲しい」と要望しても、簡単に植えてはいけません。植えたいのなら、その木が本来生息できる環境を作ることが求められます。例えば、自然には”植生遷移”というメカニズムがあります。大まかに言うと、山火事などで植物が消失した場合、最初に草本類が生えます。その後、落葉高木が生え、その下に常緑樹が生息してくるのです。いずれは常緑樹主体の極相林へと遷移していく訳ですが、人が心地よいと感じるのは、落葉高木が主体の山だと思います。軽井沢などがそのような山ですね。心地よい空間を作ろうと思えば、こうした植生メカニズムに習えばいいのです。
階層的な混植、密植が必要
山の木々を見ると、高木、中木、低木と階層的に生息していることがわかります。木が1本で生息している環境はありません。高木にとっての中低木は、幹や根元に強い陽射しや風が当たらないように遮ってくれる存在です。また中低木にとっての高木は、強い直射日光を遮り木漏れ日を作ってくれる存在です。中低木は強い直射日光を浴びると傷む樹種が多いのです。このように山の木々はお互いの役割があり、助け合いながら生息しているのがわかります。
これは一般住宅の庭でも同様で、木々にとっては自然の山よりも過酷な環境と言える住宅の庭だからこそ、1本単位ではなく、階層的に混植、密植する植栽が必要になってくるのです。これを一般住宅の庭で適用したのが、「雑木の庭」なのです。最近ではアオダモなどが人気樹種として扱われることが多いですが、これも1本で植えると最初は良いのですが、2、3年すると痛んでしまうケースが多いですね。そういう植栽のやり方を避けて、階層的に混植、密植していけば、木々が健康に生息してくれます。木々が健康になれば自ずと我々人にも心地よい環境を提供してくれるのです。
地上よりも「地下が大切」
さて、ここからが本題となります。このように自然から学び、自然に近づけた「雑木の庭」を作っても、なかなか木々が元気に育たない時がありました。どうしてなのか悩み、色々な試行錯誤をしていた時に、矢野智徳さん(造園家・環境再生士)が主宰する「大地の再生講座」というものに出会ったのです。
その講座で私はかなりのショックを受けました。というのは、私は植裁をするにあたって、地上の樹種の組み合わせのことばかりを考えていたのです。それが矢野さんによると、もっとも大切なのは『目に見える地上よりも地下にある』ということだったのです。私は改めて、植裁をするにあたっては、その土地のこと、表層地質、土壌、地形などの大地のことや、水や空気の対流のことなどを考慮する必要があることを学びました。同時にそれは植栽だけでなく、もっと全般的な住まいづくり、まちづくりといった景観の観点からも大切な概念であるということに気づかされたのです。
酸欠”グライ土”の危険
私が仕事をして来た中で、今までになかった視点は、『大地の中には空気が流れている』ということです。大地の中には、水だけでなく空気がしっかりと流れているということです。雨が降れば大地に浸み込み、地形の落差によって谷ヘ水が湧き出てきます。それは大気圧がかかり空気圧が動くことで、押し出されるように水圧が動き、谷ヘ水がどんどん湧き出てくるとも言えます。山の谷聞から朝、霧や霞が現れるのは、谷聞に集まった水と空気が夜間に貯えられ、朝になって地上に上がってくるからです。そのことからも、大地の中で対流するのは水だけでなく空気も一緒だということがわかります。
したがって水が滞れば、空気も滞ります。空気が滞れば、土中は酸欠状態になり、土は青みがかってヘドロ化した”グライ土”に変わってきます。大地も生きています。大地も他の動植物と同じで呼吸しているのです。グライ土では微生物や小動物などは生息できません。ましてや樹々はその根を伸ばすこともできません。微生物や小動物は団粒構造の土をつくってくれる担い手なのに、こういう大地では生息できないのです。樹木の恨は水と空気を流す媒体ともなってくれるのに、伸ばすことができなければ、そこは負の連鎖に基づいた死の世界です。ここを改善せずに植栽をしていても、樹々が健康に生息できるはずがなかったのです。
いま、こうした状況が全国どこに行っても起こっているのです。この土中の空気の流れの視点を欠いた空間づくりが大地を傷め、動植物が生息しづらい環境を作ってしまっています。今、大地は悲鳴をあげているのです。
田中 俊光
(一社)大地の再生 結の杜づくり 理事 /株式会社ナインスケッチ 代表取締役
「月刊エクステリア★ワーク」2018年2月号執筆記事より 許可を得て転載