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【屋久島】豪雨被害検証・2日目/ヤクスギランド周辺

屋久島、安房。アペルイの朝。ここは最初の屋久島講座が開催された場所。家の周囲や畑敷地全体に通気浸透水脈を入れた。あのときはまだ急ごしらえのデッキしかなかったが、今は宿泊棟が増設されて、広々としたデッキが伸びている。

畑もよく手入れされ、風通しが抜群に良くなった。

今日はアペルイ専属ガイドのHさんが車を出してくれ、屋久島在住5年という木工作家のNさんも同行することになった。安房川は屋久島の最深部の峰々に端を発する屋久島最大の川である。この度の雨で土砂がかなり運ばれたと聞いたが、河口付近に荒れた感じはまったく見られなかった。

結局、今日もトロッコ道(縄文杉へのルート)への入り口、荒川口までのルートは開通しなかった。そこで今回の車道の崩れと、ヤクスギランド周辺の登山道の崩壊ヶ所を見に行くことになった。

屋久杉自然館を過ぎて、しばらく登ると、今回最大の崩壊という斜面が見えた。

規模は相当なもので、花崗岩の白が現れて木々は斜面にほんの少ししか掛かっていない。ものすごい量の土石と木々が沢に向かって落ちていっただろう。

道に土砂を片付けた跡があったので、山側の斜面を観察すると、

崩れがあった。上部は人工林のスギを間伐した跡だ。

大きな玉石が木の根を伴ったままずり落ちて、別の木に引っかかって止まっているのだった。

土質は手で砕けてしまうようなボロボロの風化花崗岩である。そこに大小の石が隠れている。大石は崩壊のきっかけとして機能するのかもしれない。

矢印の奥が崩壊場所である。道路の谷側はまつで巨大な堰堤のように塞ぎが入っている。安房からヤクスギランドと荒川口に分かれる三叉路までの間には、このように大きく道路を拡張した場所が何ヶ所か出てくる。

すぐ上にも拡張工事中の場所があった。結局このような大きな工事は水脈の止めを作ってしまい、グライ土壌をつくって有機ガスを発生させ、周囲の木々を傷めるだけでなく、豪雨のとき吐けない水が斜面を登って液状化を起こす。それが崩壊を導く。

さらに進むと、道をまたいだ大きな崩壊ヶ所に出た。沢が土石流を起したのだ。道下の暗渠だけは無事のようで、そこに擦り付けるように新たなアスファルトとガードレールが付けられていた。

古いガードレールはぺしゃんこになって沢のはるか下に吹き飛んでいる。

堰堤は角が割れたが本体は残っていた。プレートには「平成7年度 復旧治山事業 林野庁屋久島営林署」と書かれている。復旧治山事業ということは、以前にも崩壊があり、それを防ぐために造られた堰堤なのだ。しかし、今回それを上回る土石流がやってきたのだ。

さらに上に進むとトンパックが積まれた場所が。

トンパックの数倍はあろうかという玉石が斜面に顔を覗かせている。森林限界を超えた屋久島の最上部は巨石がばら撒かれたように点在する光景で有名だが、植物の根に守られながら、水脈が機能していれば砂の中に吸い付くように石は安定するのだろう。だが、ひとたび脈が詰まれば大石は浮力を得て、危険極まりない存在となるのである。

コンクリート擁壁の向こうにスギの群落があるのだが、成長が悪くその色がさえない。

裏側に回ってみると・・・

苔が簡単にはがれるほど弱っている。

まるで亡霊のように頼りないひょろひょろのスギばかり並んでいるのだった。

ヤクスギランドのトイレと売店のある建物の2階で、朝食のお弁当を食べる。窓からみた光景。痛々しい白骨樹がかなりある。

「これが屋久島らしい普通の光景と思っているなら、とんでもない話だ・・・」

と矢野さんは慨嘆する。立ち枯れに関しては酸性雨説もあるが、この雨の連続する屋久島では説得力に欠ける。雨が多いからこそ、詰まりがより顕著になるといえる。

出発する。

ヤクスギランドは面積270.33haの自然休養林で、安房から約16km、標高約1000mのところに入口がある。管理棟で協力金の500円を払って入山する。管理棟の方が登山等の崩れた地点を教えてくれた。とりあえず迂回して通れるようにはなっているようだ。

屋久島REALWAVEより

この日私たちは、林泉橋を渡って荒川歩道を行き、荒川橋を渡って「天柱杉」のあるルートから蛇紋杉へ。そして太忠岳へのルートを少しピストンしたのち、小花歩道を通って元のルートから戻った。

林泉橋までは石畳風の歩きやすい広い道になっている。しかし、このカッチリした造りはまた詰まりの原因になっているのも確かで、周囲は枯れた木、風倒木が目立つ。詰まりの顕著な谷筋では、有機ガスによって枝枯れを起こしている木々にたくさん出会う。

途中の沢にはアク溜まりが見られる。

林泉橋。ここで荒川本流を渡る。

東北の第1級の山岳渓流に勝るとも劣らないすばらしい流れである。

しかしこの少し先に大きな崩壊跡が出てきた。

流れてきた倒木もかなりのものだ。ヒメシャラだが、空洞ができた木だった。

写真におさめて先に進む。

登山道のスポットにできたアクだまり。水の逃げ場所がなく、雨の時は水たまりになる場所。放置しておくとグライ化して有機ガスを発生させる。移植ゴテなどで木の根の間の土などをつついて穴を開けると、たちまち解消する。

登山道を流れる雨水は分散させて左右に振り分けるほうがよい。動かせる石などがあればそれで方向転換させることができる。

途中でまた出てきた崩壊跡。やはり土質と大石が含まれる構造は同じである。

母子杉、プレートには樹高約30m、推定樹齢2,600年とある。

最も樹高が高いとされる天柱杉。しかし、だいぶ衰弱しているように見える。

蛇紋杉(倒木)から先、太忠岳への道はなんとも厳かな雰囲気に包まれる。昨年4月の初めての屋久島講座のとき、講座開催前にこのルートを山頂まで登ったがすばらしいルートだった。

ふたたび引き返して蛇紋杉の東屋で昼の弁当を食べる。ガイドのHさんが昨日と同じように暖かい味噌汁を作ってくれる。

幹の割れ目から赤茶けたアク水を流している巨樹を見かけた。

これが「ヒゲ長老」と名付けられた木だった。アクの元を探っていくと木の根の間から水が湧き出している。その詰まりを解消してやればこのアクは消える。

裏側は沢水がやはり詰まって、根際に水たまりを2つ作っている。これも塞いでいる流木や泥水を取り去ってやればよい。

荒川橋上の分岐点の崩壊地の上部が確認できた。

かなりのスケールである。これだけの土砂を流しても本流は土砂堆積の荒れた感じがないのにはちょっと驚かされるが・・・。

木の根の下の層にはグライ化しているような砂質もみられた。車道に戻り帰路につく。

行きがけには重機が動いていて見れなかった場所を観察。

ここで拾ったグライ土は特有の独特の臭気がしていた。

帰りにまた大崩壊地を観察するが、下流の発電所(赤丸)の下流の沢にも崩れがみられる。しかし、ここには車道がない(現役のトロッコを物資輸送に使っている)。矢野さんは縄文杉が気になる様子だが、スケジュールは明日1日しかない(矢野さんは最終の飛行機で帰る)。大崩壊地の原因を明日1日で探ってみたい。

役場に行き地図を探してもらうが参考になるものがない。しかし、うわさの新たな庁舎が観れたのは良かった。総工費は24億円だそうだが、木が一本も植わっていないのは?ちょっと寂しい感じ。

アペルイで夕食。天ぷらが美味しい。右はお豆腐にタカキビをからめたもの。

明日は田中さんがフリーになるので案内してもらえることになった。ハードな沢登りになりそうである。

レポート:大内正伸(イラストレーター・作家)/2019.5.31

 

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