屋久島三日目、矢野さん最終日。今日は今回最大の崩壊地の原因を探るべく、その流域を探る予定。その前に、アペルイに居る若いスタッフに風の草刈りを指導する。
まず、短く刈り過ぎている・・・との指摘が。そして水脈を掘り起こすように、草刈りで風を通すことが大事。
9:30、アペルイを出て、田中さんの運転で昨日と同じ安房公園線を上がっていく。この道沿いにはアブラギリの花が目立つ。
今回最大の崩壊は尾立岳の南面にある斜面だ。その崩壊は、安房川の支流、千頭川に向けて落ちている。そこはこの道路の裾から沢を伝って下れば到達することができる。
雨の中、その大崩壊の原因は下流域の詰まりではないか? という漠とした思いで沢を降り始める。安全のためヘルメット着用、そしてロープを持つ。
千頭川の支流に合流し、沢の水量が増し始める。支流の小沢とはいえさすが雨の屋久島、もう対岸には渡渉できないほどの水量になっている。これでは千頭川の本流を探るのも難しい。
そこに突然「森林軌道」の跡が現れた。枕木がすでに苔むしているが・・・。
田中さんがGPSで現在地を確認する。
しばらく沢沿いに続く軌道跡を歩いてみる。
雨は止む気配がない。沢登りにはあまりよろしくない天気だ。ここで矢野さんの足が止まる。
軌道跡と沢のあいだの平地に泥だまりができているのだ。軌道跡の詰まりが影響して、林相が貧弱になっているのも解る。
カーブソーを使って水みちを切り、泥だまりの水を流す。
沢が広がってかなり明るく見える。その足で沢を観察に行くと・・・
明らかに上流から運ばれてきたと思われる石の積み重なりがある。
そして足元には流木の引っ掛かり。
立木には石が当たってできた擦痕、そして真新しい風化砂の堆積。
ここで田中さんが湯を沸かしてお茶をいれてくれる。矢野さんの推察は、今回の土石流がここで渦を巻いて左岸の片側に石が寄せられたのではないか・・・と。矢野さんは、台風豪雨のとき沢筋を観察しながら歩いた経験があるという。
沢に降りて、上流まで行ってみることにした。
緩やかな滝を直登する。
滝の岩盤と山斜面の土の接触部がえぐられ、真新しい断面が見えている。明らかに強力な土石流が削った痕だ。
滝を越えると新たな転石が累々と見え、その奥の様子がなにやら異様な雰囲気・・・。
右岸の高台にある木々がの根元が削れ、ぼろぼろに傷んでいるのが見える。
高巻きしてそこまで行ってみようということになる。
すると、対岸に岸壁と小滝が出現!
さらに前進して回り込むと、滝の全貌が明らかになる。かなり上部(100m以上はあるだろう)から流れ(崩れ)落ちている。この斜面に大量の土石が流れ落ちて、岩盤をも削ってしまったのである。
おそらく、あの大崩壊の下に出たのではないか。最上部をズームしてみると、ガスってはいるけれど、明るい空間があるのがわかる。
私たちの立っている場所は水流からかなりの高さにあるのだが、足元の木々が折れて乱れている。
しかしこの滝下の岩頭もすごいというか美しい。矢野さんは崩れた細滝の岸壁を「天の岩戸だ」と言い、私はこの岩頭にブリューゲルの描く「バベルの塔」を思い浮かべた。
よく観察すると滝下の岩に水面の跡のような筋が見える。ひょっとしたら、ここに大きな堰(自然にできた流木や岩による)ができていたのではないか? とすれば、そこに大きな泥だまりがあったはずである。
その兆候を示すかのように、ここから上流部には流れの緩い浅い淵がいくつか続いているのだった。そして泥だまりの有機ガスのせいか、植生が貧弱だ。
目的は達せられたので尾根伝いのヤブこぎして道へ戻るが、途中でまた軌道跡に出会う。
軌道を辿ると等高線上に進んでしまうので、再び尾根を探して登り始める。全体に下草が少なく、西部林道の下の森のような佇まいになっている。
風倒木も多い。
かなり古い大木の根株。
うろのできたヒメシャラの枯れ木。昨日のヤクスギランドの登山道の崩壊地にもこれがあった。
14:25。無事、車道に着いた。車を止めたところからかなり上流に出たので、ここからは車道を下る。
するとにわかに霧が晴れ、大崩壊地がうっすらと見え出し、沢への岩のなだれ落ち具合が見えたのである。われわれが見たあの細滝の岩場は、まちがいなくこの大崩壊の下のものだったのである。
アペルイに戻っても、飛行機の発着時間まで矢野さんの作業の手は止まらない。田中さんと若いスタッフに、草刈りのダメ出しと水脈メンテを指導するのであった。
今回のルート(赤点)と崩壊斜面(赤丸)。およそ十字位置が大崩壊地。
レポート:大内正伸(イラストレーター・作家)/2019.6.1
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