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【屋久島】伝統のアコウ、湿地の家、草刈りと水脈

屋久島2日目の朝、意外や青空が見える好天だった。実は5月の崩壊と登山客救助のあの出来事以後、前日に大雨の警報が出ると登山口へのバスを出さないという状況が起きている。いささか過剰報道であったせいか、登山客のキャンセルが相次ぎ、7月という登山の好シーズンなのにガイドの仕事は激減しているという。

今回、矢野さんの映像を撮り続けているMさんが矢野さんと同じく屋久島入りし、ビデオを撮り続けている。テラスで朝のインタビュー中。

朝食をとり、今日の準備を始めていると雨が降り出した。スコールのような雨で、すぐに小やみになる。

船行のアコウ

まずはガイドのHさん引越し先、船行集落にあるアコウの巨樹を見にいく。ここには何本ものアコウがあり、弱っている木があるのでいつか矢野さんに見てもらえたら・・・と前回話していた木なのである。

道を挟んで祭壇があり、地区の人が亡くなったとき、棺をここに置いて村人全員がお別れをする。船行集落独特の風習で「オゴソ」と呼ばれるそうだ。

道路に交錯する水路を見ればわかる通り、ここは上からの水が集まる扇の要のような場所である。船行は屋久島ではめずらしく里地に雪が積もる集落で「屋久島の北海道」とも呼ばれている。この道沿いにはアコウの巨樹が何本も並んでおり、あきらかに何かのエネルギーが集まるレイラインのように思える。

地元の人が通ったのでご挨拶して木々の来歴を聞く。地区に話を通していないので、いきなり改善の手を出すわけにはいかない。葉が落ちているのは明らかに根が弱っている証拠。やがて幹が空洞化する。矢野さんはまずは草刈りで風通しを確保するよう提案した。地上部が先で、点穴などの地面をいじるのは後だ。

風の草刈り、その極意

いったんアペルイに戻り、皆で草刈りに行く。

ノコギリがまは少し先を曲げるといい。草が引っかかりやすく、よく切れるようになる。

草の刈る位置や刈り方のフォームなど、一通りのレクチャー受ける。「草の全体の、柔らかいふらつくものを取るイメージ」「ノコのギザギザに引っ掛けて刈る、削いでいく」という技術の枝葉を教えた後、矢野さんは「風を作るために草を刈る」という風の草刈りの本質をずばりと言った。

そして、その本質から見て最も重要なことは「どこまで刈るか(開け加減)、どこまでやるか(エリアの加減)」ということで、「それが噛み合うと相乗効果が生まれるのだが、皆それがなかなかできない」と言う。ここはちょうどカーブしていて膨らみの奥に風の抜ける低い草地がある。そこに等速に風が流れるように、木々の間の開け加減と範囲を勘案していく。それは「風が教えてくれる」のだ。

ここはアペルイに隣接する牛が草を食む牧草地。牛も食べながら風の草刈りをしている。牛は草を根際から食べることはなく、柔らかい上部だけを食べていく。草丈の低い場所は、低いなりに刈っていく。

ノコのギザギザでやると、切断面は刃物のときとまったく違うものとなる。この切り方が再生するとき直上せずに枝別れを誘い、穏やかな伸び方となり、地中には細根が出る。

轍(わだち)は雨のとき水路になりやすい。傾斜がある場合は草と石を一定間隔で盛っておくと侵食されにくくなる。また、ときおり水切りを作って道の外にオーバーフローさせる仕掛けを作っておく。

湿地の家を改善する

昼食の後、初参加のガイドのMさんの家を見に行くことになった。その家は常に水たまりができるような低地にあり、湿気がこもって暮らしにくいという。チップをまいてみたのだが、かえってぬかるみが広がるようになってしまった。

傍らから湧き水が出て家のほうに流れている。家の周りにはU字溝があり、そこに落ちた水は家の前を迂回して浄化槽の排水と合流し、竹林の谷に落ちるようになっている。これはもう水切りをして、家のほうに回る水を直接竹林の谷に落とした方がいいのは明らかだが、Mさんは車でそこを行き来するために諦めていたのだった。

もはや見学どころではなく、矢野さんの指示で早速作業に入る。まずは竹林に風が入るように草を刈り、風をさえぎる倒れた竹を出していく。

そして谷に落ちる水みちを切る。

これで湧き水の2/3は竹林の谷に誘導できた。

ここに車が通っても水路がつぶれない工夫をする。水路に竹の幹を並べていく。竹を管にして水を通すわけではないので節は抜かなくてもよい(そのほうが荷重に強い)。

細かい枝葉をかぶせていく。

すでに泥水が竹林の谷に滔々と流れ始めている。何度味わっても気持ちの良い瞬間だ。

枝葉はただ置くのではなく、隙間に編み込むように差し込んでいく。

山側に土(チップ)を盛っていく。

完成。およそ1時間ちょっとの作業だった。

Mさんも奥様も、結(ゆい)作業のあまりに速さとその結果の敷地の激変に驚いている。冷たい梅ジュースをいただいて一息。「結作業のよいところはいろいろなケースを客観視できること、一人だと軌道修正ができない」。私(大内)も途中でカメラを仕舞ってナタで竹の枝払いを手伝った。

飛行機ぎりぎりまで

アペルイの建物はどっしりとしたコンクリートのベタ基礎で押さえつけており、それゆえ周囲の詰まりが解消されていない。残り時間でそれを少しでも改善すべく、矢野さんは田中さんに重機を手配させていた。

休む間もなく作業が続けられる。「ムラのない一様な水のラインが・・・よれすぎない、かたまりすぎない、はけすぎない・・・ができるように」

矢野さんはいつも最終飛行機のぎりぎりまで作業を続ける。参加者は早めに切り上げ、田中さんが今回の総括をする。縄文杉にはフラれたけど、今回も充実したスペシャルな大地の再生ツアーだった。

やがて矢野さんが戻り、感想会。これらの意欲ある人たちのためにも、素敵なマニュアルを作らねばならない。

私は明日まで居残るのだが、矢野さんと車中で打ち合わせするために飛行場まで同乗する。ところが屋久島空港に着くと、鹿児島空港でオイルが滑走路に漏れるというトラブルのため、最終便は欠航が決まったというのだ。

というわけで、皆でカフェでお茶を飲んで気持ちの仕切り直しをし、「屋久どん」という店でうどんとシイラの天丼を食べ、時間ぎりぎりに小野間温泉に入って汗を流し、アペルイのテラスで島焼酎を飲む・・・という天から降ってきたような、ささやかな休息を味わったのだった。

翌朝、矢野さんとHくんはテラスで朝食を食べ、その後敷地の奥の手入れのアドバイスを田中さんを連れてひとしきり。そして、始発のトッピーで鹿児島へ。

レポート:大内正伸(イラストレーター・作家)/2019.7.11

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