2020年年明け第一弾のライセンス講座は山梨県北杜市である。矢野さんらが今から7年前に作られたという縄文小屋のメンテナンスを行う。その小屋は八ヶ岳の南麓にある体験宿泊施設「野風草(のふうぞう)」の庭先に建てられており、そこに至る経緯は当HPの「参考資料>メディア掲載一覧>MOKU(2013年 6月号P56〜65)の記事」に詳しい。
野風草の主宰、舘野さんは施設近隣の農地で自然農を実践し、大地の再生を「講座」としてスタートさせるきっかけを作ってくれた方だという。つまり「大地の再生講座」というスタイルは、ここ野風草から始まったのである。
縄文小屋は思ったよりやや小さくて、そのくせ背が高く棟が2段になっており、なんだかマンモスのようなシルエットで可愛らしい。
フレームは古材と竹。そして茅葺だが、茅(ススキ)だけでなくアズマネザサ、ヨシなどが使われている。およそ1年かけて、講座形式でコツコツ作った。八ヶ岳では放置田にヨシが生えてくる場所が多いが、刈り取るにも許可がいるのでその所有者探しに苦労されたそうだ。
内部はよく乾いていて葺かれた素材の風化の跡もそれほど感じられない。内部の主なフレーム、4本の掘っ立て柱は10cm角程度の古材が使われており、横梁との接続は番線しばりによっている。
地面と接触している素材がやや腐食して欠け始めている・・・といった程度で、補修すればまだまだ十分使えそうである。
今回は野風草の母屋に1泊2日のスケジュールでお世話になり、食事は野風草の特性ランチをいただきながら、縄文小屋のほかにこちらの敷地や畑を整備し、これまで初期の大地の再生講座で回った八ヶ岳南麓の観察トレッキングなどを行う。
まずは矢野さんが焚き火の点火と、飛び火しないしつらえ(焚き火の円周に浅い溝を掘る)をレクチャー。近年は焚き火がどこでもできなくなったこともあり、誰もが火に強い興味を示す。が、それは同時に火の危険を知らないということでもある。
縄文小屋周りの草刈りを皆で行う。草刈りは夏だけのものではない、実は冬こそやらねばならないもの。ただし、やりすぎると植物本体を傷める。表層のふらつくものを弾いていく。灌木やササの周囲は縦掻きで落ち葉、ホコリやアク、クモの巣などを落としていく。そんなイメージでよい。草刈りはあくまでも風通しが目的だ。
23年前、舘野さんがこの地に来たときはやはり荒れ果てた灌木とササ原の場所だったそうだ。今では風の草刈りによってササは落ち着き、木々のすき間から甲斐駒ケ岳をはじめとする南アルプスの山々が望まれ、梢には小鳥たちが多数訪れる。
正面のコナラの木は下の家からのクレームで「伐ってほしい」と言われたそうだが、矢野さんらが説得して7年前に1/3の高さに伐り残した。今では萌芽枝が育って堂々たる大樹になり、風景として美しいだけでなく、土留めと風除けの役割を果たしている。そして、その根は地中の空気循環と保水に大きく貢献しているだろう。
母屋から公道へ出る道のメンテナンス。ここはアスファルトは敷かず、水脈と点穴、そして抵抗柵による水の分散を行った。さらにグランドカバーをしておけば土の団粒化が起きやすくなり、泥水が出ない。すると植物の根がよく張って微生物も増え道も強固になる。このような手を入れると雨のない日も空気が動くようになる。メンテナンスは元の水脈を開いてやるだけでよい。
舘野さんの畑はこの公道のすぐ先にあり、正面に八ヶ岳連峰が望めるというすばらしいロケーションだった。
が、その八ヶ岳の山肌をよく観察してみると・・・
所々に樹木の生えていない裸地・崩壊跡が多数あるのだった。早くから別荘開発が盛んだった八ヶ岳周囲は、現代土木による水脈の塞ぎが強く、近年多数の無立木地帯が多数できてしまった。
明日は天気が崩れるというので、八ヶ岳の観察トレッキングは今日行うことになった。午後から車に乗って移動する。
八ヶ岳南麓の最も高標高(1,350m付近)を走る「八ヶ岳高原ライン」から八ヶ岳農場に入り、展望台へ向かう。
早速、遊歩道入り口の水脈改善に手を入れる矢野さん。
クマザサの林地に入ると残雪が現れた。
展望台到着。
富士山がすばらしい。が、ここはゆるやかな尾根なのに植物がほとんど生えていない。
常に土が流れ続けるガレ場だから植物が生えない・・・人為的な踏み跡が多すぎるため・・・それとは明らかに違う。やはり地面の詰まりがこうさせていると考えざるを得ない。対策は水脈を掘り起こし、地形の変換点に点穴を施し、地中の空気を動かすことである。また、枝などを使って走り水を抑制させて、雨水の浸透を促すことである。
日本のような気候条件の元では、人為的な圧力なくして裸地ができるということはありえないのだが、いま全国いたる所にこのような場所ができ始めている。詰まりがもたらす無酸素状態の土が嫌気性バクテリアをはびこらせ、それらが落ち葉などの有機物をどんどん分解してしまうという追い打ちもある。
その元凶が泥アクの流出で、地面の表層を詰まらせる。有機ガスも放出される。そして負の連鎖が始まるのだ。いま、八ヶ岳山麓ではササが消え始めているという。昨年訪れた裏丹沢と同じ現象が起き始めている。
次の場所「呑竜の滝(どんりゅうのたき)」へ向かう道すがら、そのようなササの衰退を感じさせるロケーションに何度も出くわすのだった。
呑竜の滝は駐車場からしばらく沢沿いの遊歩道を歩いていく。その支流は流れが黒く見えるほど底に泥アクが堆積していて驚いた。
遊歩道の左右には枯れ木が大変多い。それらは明らかに水脈不良が導いた結果とわかる位置にある。矢野さんがそれを指摘しながら三つグワで水切りをしていく。
小海線の鉄橋をくぐると・・・
呑竜の滝。岩の間からいく筋もの水が絹糸のように流れ落ちる。たしかにすばらしい滝である。が、水量が少ない上に岩に着くコケの表情が冴えない、植物の付き方も弱々しくうなだれており、岩場から生えている木々はいまにも倒れてきそうなほど弱々しい。
地図を見ると滝の伏流水をもたらすと思われる場所には牧場や直線的な舗装道路が突っ切っている。それが泥アクをもたらし、滝を疲弊させているのは明らかだった。滝周辺の水脈を皆で掘り起こした。
さらに上流に向かい八ヶ岳牧場から周遊できるコースを進んでみる。この川は川俣川といい、権現岳と真教寺尾根に源を発する八ヶ岳南麓を代表する渓谷だが、地図で確認するだけでも一帯から源流に向かうまでにものすごい数の砂防堰堤が造られている。
途中から沢を離れて牧場に登っていく。樹林帯は腐葉土が少なく草本類が見られな場所が多い。斜面では根元が掘られオーバーハングが多数できている。
この支流の谷は7年前に矢野さんらが講座参加者たちと水脈整備した場所だという。枝がピンと張った木が多く、明らかに表情の違いが読み取れた。
牧場の端までようやく登り着く。雪をかぶった八ヶ岳が間近に見える。右側が最高峰の赤岳(2,899m)。すでに夕刻。下山を急がねばならない。
ヘッドランプをたよりに全員無事帰還。お風呂・食事をすませて夜の座学。
舘野さんが縄文小屋建設時の写真を見せてくれた。フレームの立ち上げと構造がよくわかる。
ヨシの束ねと割り竹での押さえ。
明日は畑地の手入れと、いよいよ縄文小屋のメンテを行う。
レポート:大内正伸(イラストレーター・作家)
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