活動事例レポ
ライセンス講座

【市原市】ライセンス講座(被災地支援)/1日目

2019年9月9日の台風15号は千葉県で甚大な被害を出した。テレビニュースでは強風により市原市のゴルフ練習場が倒壊した事故が映し出されたが、私個人も1週間後に現地を取材し人工林の多数倒壊の現場をブログ記事(「千葉、台風15号、スギ林大崩壊」)にアップした。その千葉県の市原市で2019年12月18日から2日間にわたり「大地の再生ライセンス講座(被災地支援)が行われた。

場所は市原市のほぼ中央にある小湊鉄道「上総牛久駅」付近。「米沢の森」と呼ばれる地元の方々が整備された里山・遊歩道があり、やや離れた丘に拠点としての古民家がある。まずは古民家に集合し、米沢の森を管理されてきた「市原米沢の森を考える会」代表の鶴岡さんの説明を聞く。

「米沢の森」は全100haのうち個人の土地は1割程度、その多くは県の所有地で開発のために買収されたがバブル崩壊とともに放置され、里山は荒放題となっていた。平成16年に市民が県と協定書を結び、約12キロを遊歩道として活用し、ヤマザクラなどの巨樹・古木をシンボルツリーとして保全している。

矢野さんはまず千葉という風土を語った。「千葉は首都圏に近いことから宅地やゴルフ場などの開発が早くから進んだ場所であるが、砂地をベースとした独特の地質・地勢を有しており、海に恵まれ内陸は丘陵地や平野が多く、ほんらい生産性の高い土地である」と。太古の昔から良い意味で里山は大いに開発され人々に恵みをもたらしていたのであろう。

しかし近代における乱開発の影響で水脈が断たれ、大地・地形がゆるんでいる。今なんとかギリギリで息づいているという状態が見える。そして特徴的なのは養老川が小湊鉄道というローカル線を伴って市原市を貫いていることで、この場所は「大地の再生と流域」というテーマを考える上で好モデルとなる。

まずは敷地の踏査ということで、全体の最下流にあるため池を訪れる。すでに水の濁りと周囲の樹木の枝の垂れ下がり・・・というサインで詰まりと疲弊が見て取れる場所だった。

先の古民家は丘のような場所にあるのに水はけが悪く、庭に水たまりができて土がぬかるんでいたが、最大の原因はこのため池周囲の詰まりにあると指摘。ため池の出口とその水路もコンクリートで固められており・・・

周りの植物は・・・

猛烈なヤブ化、そして枝枯れをおこしている。大地の再生「感覚チェックシート」の5段階評価で「2」の場所、と矢野さんの指摘。

昔は自然地形に合わせ、農地とその周りは流線型に造成されることが常で、そのおかげで「渦流」が自然にできる。しかし、このため池は近代改修工事によって機械が造成しやすい形に直線化されていて、土手も柵を見てもそれが顕著に現れている。

直線化すると必ず空気や水の滞り(とどこおり)ができる。その結果、アクや泥水が出る。それが目詰まりを作り循環不良の原因を作る。泥アクは停滞・堆積すればヘドロとなって有機ガスを出し植物を弱らせ、乾けばドロぼこりが舞う。

遠くに見える山の端(つまり木々の先端)は、生態系が健全ならきれいに刈られたように揃っているはず。が、周囲どこを見てもギザギザで歯抜けが見える。イネのひこばえの枯れた風情にも力がない。わずか50年の人の開発でこのようになってしまったが、これでは災害が日常化するのは必然とも言える。

米沢の森の入り口には水たまりとぬかるみ。

ここからヤマザクラのある展望台まで登る。昔の谷津田に沿ったこの道がまたぬかるみとヤブの連続で荒れていた。ここ数年の荒廃がとくにひどく、手入れが追いつかない状態だという。

ところどころに今回の台風でおきた表層崩壊の跡が現れる。

そして風倒木。

谷津田跡にハンノキが自然発生して大きく育っている。鶴岡さんはそれを「困ったこと」のように説明していた。

矢野さんは「里山放置や手入れ不足よりも、むしろ全体の水脈・気脈の詰まりが原因で、それを直さないかぎり問題は解決しない」とズバリ言った。十数年もボランティアで手入れを続けてきた身にそれは厳しい指摘であったろう。しかし鶴岡さんは「目からウロコです、先生の指摘を受けて間違いが解りました」と、すぐさま言うのだった。

ヤマザクラの丘に出た。晴れた日には「一都十県を見渡せる」というほどの展望がある。このヤマザクラの古木を助けるために、ヤブを払い、周囲の灌木を切り、また見栄えのために菜の花を育てたりもしている。

しかし、その手入れの過剰さを矢野さんは指摘した。人のために良かれと思った手入れが自然のためにすべていいとは限らない。伐られてしまった灌木や下層植生にも意味があり、ここは日当たりと風通しを急激に開いてしまい、木々の根が荒れた様子が梢の様子からうかがえる。

里山整備の人たちは、台風や獣害になげくが、本来の森林機能があれば少々の台風でひどく荒れることはないし、イノシシの踏み荒らしはむしろガズ抜きの役割をして再生に手を貸していると言える。むしろ獣たちはそうすることで自分たちの餌場としての自然が蘇ることをインプットされているのではないか。と矢野さんは言うのだった。

古民家に戻り昼食を頂いて、午後から古民家周りの整備を始める。

焚き火が大きすぎたので矢野さんの指示で焚き火のぐるりにスコップで溝を掘る。引き込む空気が溝でワンクッションして乱流になるため、これだけで火は落ち着いて穏やかに燃え続ける。

なんと庭の一部に小さな古墳がある。

古民家の裏手はこんな感じ。片付けられて風通しは良いが、ここにも水脈が要るだろう。

参加者による作業はまず有機資材作りから。奥にある荒廃竹林の竹を間引き、それを水脈に入れる資材としてさばいていく。

矢野さんは旧道の斜面を掘り始める。この道がかつての正面の入り口だったそうだが、今はヤブになって使われていない。

しかし、敷地全体を見ればここが重要な水脈のはけ口にはちがいない。その風と水の流れを取り戻す作業。

大きな点穴を掘り、全体に掘り起こして整地。

最後は竹の枝葉を用いてグランドカバー。

もう一台の重機は家の周囲に水脈を入れる。

さらにもう一台。古民家までの車道の水脈整備。この道も直線的な坂道で、かつぬかるんでいる。

こうして家周りの作業を夕刻まで。終了間際に既設の水道管を重機が割ってしまうというハプニングが起きる。古民家の場合、持ち主や借り主が知らない場所に配管が隠れている場合がままあるものだ。しかしこの配管は生きているのでとりあえず止めねばならない。結局、木栓をして杭打ちで仮止めした。

明日は古民家周りの仕上げと、米沢の森への遊歩道周囲を整備する。

レポート:大内正伸(イラストレーター・作家)

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