活動事例レポ
ライセンス講座

【丸森町】ライセンス講座(被災地支援)/1日目

宮城県丸森町で行われる大地の再生ライセンス講座3日間、初日は個人邸である。宿から現場へ向かう途中で阿武隈川を渡る。今回の台風19号で阿武隈川流域はかなり大規模な氾濫をおこした。

阿武隈川は福島県の中通りを南北に流れる川だが、今回の氾濫はそれこそ福島県内は北から南まで、福島市から郡山市、須賀川市、本宮市、伊達市、白河市などで広く決壊・浸水した。支流も含めると、被災した市町村は相当な数にのぼる。しかし河口は宮城県にある。

宮城県でも丸森町や角田市では大きな氾濫被害を受けた。下の「川だけ地図」の赤丸が阿武隈川河口で緑丸が丸森町役場の位置であるが、最下流の角田市で蔵王山脈を水源とする一大支流・白石川が合流することがわかる。このような地勢が洪水を加速させた一因でもあるだろう。しかし、なにより流域全体の浸透機能が弱くなっているのだ。

川だけ地図

途中で被害を受けた農地のひび割れた地面を見た。待ち合わせ場所の小学校も冠水したとのことだが、その痕跡はもう明瞭ではなかった。現場に着く直前に「お釜の海食崖」と書かれた岩場が現れた。

個人邸は田んぼの中に島のように浮かんだ地形の上に建てられた住宅だった。その土地の斜面の一部が崩れ落ちている。19号の被災時には数日間周囲の田んぼが水浸しになり、それこそ小島のように浮かんで孤立したそうだ。

まずは土地の外周をまわって崩壊地を下から眺め、

島の連続地形と思われる岬のような丘を歩いてみる(ここは別人の土地)。

その尾根から眺めた崩壊斜面。左は植林スギだが、蔵王おろしと呼ばれる冬の奥羽山脈の季節風から家を守っており、その防風林は家のアプローチ付近までぐるりと巡っている。

基本的にこの岬と島は岩でできている。先にみた海食崖の岩なのだ。

講座開始時に配られた資料の地図で現在地と全体の水脈を確認する。

建物は屋根と壁にアクが付き始めている。風通しと水脈が循環していればこれは付かないもの。

矢野さんの指示に従い、3カ所に分かれて作業開始。1つは屋敷周り上部の枯れ枝を集める作業。風通しを良くするだけでなく、集めた素材は水脈のマテリアルとなる。

もう1つは敷地下部の風通し改善である。

石垣上部のヤブ化した個所に風穴を開けていく。

そして3番目は崩壊地の処理だ。ここは長野から参加したAさんがチーフとなって重機を動かした。崩れた場所のスギ倒木を利用して空気通しの良い土留め柵を作る作業だ。

焼き杭を打ち、そこに倒木スギを適宜サイズに切って積んでいく。盛り土がこぼれないようにスギの枝葉を詰める。裏側に盛る土には炭を多めに混ぜておく。

風が通った石垣上部。さらにその下部にSさんが点穴を開けていく。

段差をつけて構築されていく崩壊斜面。

建物のアプローチに植え込みが多数ある。そこにも点穴を手作業(ツルハシで)で入れていく。

コンクリート舗装された車道、法面の天端にブレーカーで点穴を開ける。そこにスギの枝葉を入れていく。

庭にも手を入れていく。池の水が濁っているのは循環が滞っている証拠。これを取り戻したい。

芝生と植木はある程度手入れされているが、大地の再生視点での草刈りを加える。

目線くらいの高さを意識して、空間全体に風を通していく。ムラをつくらないように、回転の強弱をうまくつける。柔らかい草のところは回転を弱く、風抵抗の強いところは回転を強く。その力加減を調整できるようにするためには自分の中に気力が要る。

「草を刈ることが目的ではない。風を通すのが目的」

芝の上に小さな穴を穿ち、炭を入れていく。

庭にある一番の大木、いわばシンボルツリー。その根周りにハンドオーガーで穴を開けていく。

水害時に吹き溜まりに大量に集まったイネ藁を、グランドカバーの素材にする。

あるものを使う。自然はいつも必要なものを与えてくれる。

完成した崩壊場所の土留め。詰まりのある場所が崩れる。そのあとは空気や水の流れは良好になっているのだから、その崩壊地形を活かして、破壊してくれた自然と共同作業するように、現地の素材を使ってその後をフォローすればよい。このあと自然に下草や実生の木々が発生していくだろう。

暗くなっても矢野さんは、階段と置石との間にバールを入れて隙間をあける作業を繰り返している。ほんのわずかの隙間があくだけで、石周辺の植え込みは息を吹き返すという。

今回お世話になる宿は、イベントの主催「NPO法人あぶくまの里山を守る会」代表大槻さんの経営する自炊の宿「大槻屋」。庭先の焚き火もOKだというので焚き火を囲んでの夕食となった。

レポート:大内正伸(イラストレーター・作家)

 

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