活動事例レポ
ライセンス講座

【岡山県高梁市・百姓屋敷わら】ライセンス講座/1日目・前編

2019年12月9日より11日までの三日間、岡山県高梁市「百姓屋敷わら」の敷地で「大地の再生ライセンス講座」が行われた。わらは重ね煮などの料理研究でも知られる船越康弘さんが主宰する体験宿泊施設で、他にも1日2組限定の食事をメインにおいた宿「WaRa倶楽無」を併せ持っている。

船越さんら家族はこの地に35年前に入植し、現在では約30万坪という広大な敷地を管理している。印象的なのは丘の最上部にあるクヌギの大樹で、それが守護人のように敷地全体を見下ろしている。また最下部にはため池(かつての谷津田に使われていた)があり周辺の遊歩道整備を進めている。

早朝に集合し、船越さん(写真左)から敷地の沿革を聞かせてもらい、各々自己紹介。矢野さんから今回の作業の概要が話される。建物周辺はもちろんだが、最も重要なのは沢筋からため池へのつながりと、それに付随する道の管理である。

まずは地形図を手に敷地全体を周遊する。最初に丘の最上部にある社(おやしろ)に全員で参拝する。船越さんが入植した当時はこの社周辺も荒れており、ここから手入れを始めたという。

丘の上から見る瀬戸内海方向には雲海が出ている。中国地方では低標高でも雲海が見える場所があり、高梁市の「備中松山城を望む展望台(雲海展望台)」は市をあげて観光名所にしている。ここわらの宿でもこの景色(雲海から朝日を望むことができる)が大きな見どころになっている。

ため池に続く作業道を降りていく。直線化した道がまっすぐ続いており、谷側の法肩が高いため、日常の雨水は谷側に浸透せずに、この道を川のように下っていく地形になっている。

その証拠に山側の法面には所々土が露出して、植物がついていない部分ができている。路面と法面との接線(斜面変換点)を三つグワで掘ってみるとかなり硬い。地中の空気が詰まっているのだ。道の形状に加えて、この硬さも浸透を妨げ、泥水を生み出す原因になっている。

地面がはげてくるような状態になれば、その周囲で息をしている植物も苦しくなり根の呼吸が弱ってくる。枝枯れを起こし、最終的に虫が入る。葉がちゃんと紅葉できない。

「斜面のはげと泥アクが出る原因は・・・空気が循環していないから」

これはこの道周辺だけの問題ではなく、ここ半世紀の人の開発が全国にそのような問題をもたらしている。かつての日本はどこにいっても綺麗な紅葉があり、山に入れば清流があった。それがこの50年で忽然と消えて、いま日本の川じゅうがドロ水を出している。

現代土木は「大地が身体と同じように息をしている」ということを考えず、先に机の上で図面を描いてしまう(本当は現場で地面に触らないとその調整は解らない)。雨水を合理的に効率よく流すという考えはあるが、空気循環の視点を持たない。

その改善は大々的にやらなくても、空気と水が分散型に流れ浸透するように、少しずつ手を入れ続けるのでよい。やがて植物たちが自らの根の機能を発揮して応援してくれるようになる。

「環境改善は一気に成り立つものではなくて『育てていく』世界・・・」

途中、スケールの大きい岩場が現れた。上部に大きなケヤキの木が食い込むように立っており、どうやらシンボルツリーのクヌギの直下にこの岩場の谷があるようだった。

これだけの急斜面を支えるには土と木だけでは無理で、石や岩が必要になってくる。その石の周りにも空気が循環していないと風化が早まり、崩れやすくなる。その循環をもたらすためには「木」が必要になってくる。そのようにして、ここは空気と水が長い年月をかけて作った彫刻ともいうべき場所だ。

そこに短期間の土木工事によって道が作られ、この岩場の水脈は分断されており、石の周りの呼吸が悪くなっているのが見てとれる。たとえば石への苔のつき方が弱く、植生もうなだれ暴れたりしている。

岩の周りの空気循環が悪いと樹木の根の呼吸が苦しくなり、樹勢が暴れて強根を張り、岩が崩れる心配も出てくる。道と斜面との変換点にしっかりとした水脈や点穴を作る必要がある。

▼斜面に生える樹木の役割
1)土圧を支える。
2)土の中に空気を通す、泥を漉す(根が呼吸することで空気を通す)。
3)通気通水、循環機能。

道を作るために大きく切られた斜面。植生がなく常に崩れ続けている。空気と水が通るまで崩れ続ける。この斜面に徐々に苔や下草が生えるようにしなければならない。それには斜面変換点の空気を抜いてやるのが一番よく、そのほうがコンクリートを張るよりもはるかに合理的で、周囲の自然の表情も美しくなる。

道に堆積する落ち葉も重要で、グランドカバーになり腐葉土の補給にもなる。自然農の堆肥づくりとして落ち葉の採取をするときは、道の上のものは残して他の場所から採るほうがよい。

敷地最下流のため池に続く沢筋に土を採掘した場所が現れた。沢はコルゲート管でつながれてその上を盛土された道が横断している。そのため抜けが悪く、道の上流は泥が堆積している。この一帯の改善はかなり時間がかかりそうだ(3日目に行った)。

この一帯は石灰岩の岩が随所にあり、それが風景に程よいアクセントをつけている。岩の上に生えていた木が根元から伐られており、「これは伐らずに石と共存させておくべきだった」と矢野さんのレクチャーが入る。石はその重さと硬さによって斜面を安定させる重要な役割をもつが、周りの空気と水を循環させるには樹木がワンセットに置かれる必要がある。

石に対しても空気を循環させる必要があるのだ。人間の都合で走りやすい道をつくるためにこの木がじゃまだったという。しかし伐るならもっと幹の上部で、萌芽再生できるように伐るべきだった。

昔の道には岩と大樹がセットになったこのような所がたくさんある。もし岩を退けたら? 岩の機能の代わるものを作る必要がある。石垣に生えている樹木も同じで、詰まると根が太り始めて石垣を壊す。空気と水が循環していると根が安定して石垣を保全する。

「もし道が崩れたら、元の通りに直さないで、崩れた形を生かして再生させるのがよい」

崩れることによって空気が通りやすい形に自然が誘導しているのだから。

池が見えてきた。水はかなり濁っている。

矢野さんの感想は「池の土手が重すぎる」というものだった。おそらく改修前の初期の堤はもっと軽やかで木も植わっていたのではないか、という。樹が植わっているとそれだけで土手は軽くなり、かつ強靭になる。昔は大河川の堤防にはどこでもマツやサクラやヤナギなどが多く植えられていたが、東日本豪雨で決壊した堤防はみな木が生えていない所だった。

矢野さんの見立ては、今回は水に手をつけず、「入りと出」の「沢の改善」をするというものだ。周囲に空気が通ると水がすぐに澄んでくる。午後からまずその仕事に着手する。池周りをその半日で何ができるか? 限られた時間で限られたエネルギーをかけ、全体をみながら部分を直していく。自然の雨風の技になぞらえた作業だ。

具体的には上流部の池の流入口に、点穴的な小池の緩衝帯(谷の水脈に見合った)を造る。沢を掘り返して柔らかい泥(グライ化している)を取り出し、有機資材(中枝、大枝)を入れる(小枝を先に敷いて弾力をつける)。石が入り過ぎているので少し取り出して配置換えする。

下流部の池の堤はかつて中央が崩れ、配管を入れてその内側を石と練りコンで直した跡がある。が、その補修が弱い部分があるので、下流への水漏れがある。そこを仮復旧する。そのあとに石組み追加したり木を植えるとよい。

ガチガチに固めるのではなく、空気と水が程よく抜けながら、地形が安定するように誘導する。

すると自然が応援してくれる。自然がみずから回復の方向に向かう。マイナスを放置しておくとどんどん悪くなる。土手が自然に育つようにするには一度には決まらない(5割程度)。でもそのあと自然が安定状態に持っていく。それが最小エネルギーで最大の効果を発揮させるやり方なのだ。

最下流の池からふたたび尾根を目指して登っていく。全体に切土が大きく、その土で路面を安定させ、残りは谷側に落とす作り方をしており、この道はバケットサイズ0.35クラスのバックホウで造られた。これが大きすぎる。

道を入れるならまず人が通る道(3尺道/人がすれ違える約90㎝幅)を入れながら、雨水の水の分散を考えるのがよく、重機を入れるなら車重2tクラス。そうして最終的に軽トラが通れる道を拓くならバケットサイズ0.2〜0.25クラスの(車重4〜8t程度)支障木の抜根ができるぎりぎりのサイズを使う。

バックホウは上手く使えばバケットで床掘りをして盛土をすることが可能だ。すると「半切り・半盛り」で土の移動が相殺され、切土を低く抑えることができる(切土高は1.5m以下なら垂直でも崩れない)。

盛土には表土など有機物を挟んで転圧していくと速やかに緑化でき、支障木(道を切り拓くとき邪魔なので撤去したい木)はできるだけ生かして、法肩などに移植する。大きな支障木は根元から伐採して抜根し、出た幹や根株は土留め構造物として現地利用する(詳しくは『山を育てる道づくり』参照)。

 

木組みを入れると優しい道になり、その木が朽ちる周囲の生きた木々の根がそこを補完する。そこにあるものを組み込んでいくこの造り方に加えて、矢野さんの「大地の再生」手法による空気視点とメンテナンスをすれば、おそらく山を傷めない最高の作業道を維持できるのではないだろうか。

昔の尾根は雨水が九分九厘浸透していた。尾根に窪んだ道は水が集約しすぎる。それを分散浸透型にする。浸透させる地形を作る。すると道全体が、轍(わだち)の凸部と同じ柔らかさになる。

ほぼ敷地を一周して、最後の建物の場所に着く。

船越さんが35年前にこの地にやってきたとき、傾いていたお社の再生から始めた。それが良かった。幸いにして、山頂部に建てたこれら建物群の基礎が大きく固められておらず軽い。だから、なんとか皮一枚で保っている。生態系を自分の力を取り戻す、息を吹き返す力をまだ持っている・・・と、全体を回った後に矢野さんが感想を述べた。

最初の広場に戻る道すがら、シンボルツリーのクヌギを間近で見上げた。午後から池周りの作業に入る。

(続く)

レポート:大内正伸(イラストレーター・作家)

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